安部公房「デンドロカカリヤ」

 去年ちょっとだけ『植物』になったコモン君が受け取った1通の手紙。「あなたが必要です。それがあなたの運命です」。これをきっかけにコモン君に例の発作が表れたんだね。裏返りそうになる顔を隠しつつ、他人の目から逃れながら、人の流れにのって歩きつづけた。しかし、コモン君がいったい何をしたというのだろう?彼は何もしてないじゃないか?

水中都市・デンドロカカリヤ (新潮文庫)

水中都市・デンドロカカリヤ (新潮文庫)

 動物と植物、不純と純粋、幸福と不幸。裏がえろうとする顔に集約されるモチーフを満載して描かれるのは、人間の自由についての物語です。人間が動物ですらなくなってしまう境界において、ようやく意味を知ったコモン君の戦いの行方やいかに。「何もしない」ことの悪に気づいたとき、支配階級に対する熱いメッセージが伝わってきます。