遠藤周作「従軍司祭」

 兵役義務で生活を奪われた俺は、義務としてアルジェリアのゲリラ戦に派兵されるようになった。だが、俺はどうして殺さなきゃいけないのか解らないんだ。義務だから入隊したのであって、アラブ人が憎いわけじゃない。殺したいなんて、これっぽっちも思っちゃいない。アラブ人と戦争をするのは進んで軍隊に入った奴らか、外人部隊でたくさんじゃないか?

最後の殉教者 (講談社文庫)

最後の殉教者 (講談社文庫)

 イラク戦争とインターネットにより、戦争論理を多少は身近なものとして捉えるようになってきた日本人ですが、それでもまだ与えられた情報を分析するだけであり、アメリカに追随せざるを得ない日本政府と同様に、地理および情報距離という埋められない温度差があります。そのひとつの遠因は宗教学(ここでの場合、キリスト教)が根付いていないためであり、ここでいう角度からの考察は真新しく思いました。
 タイトルは「従軍司祭」です。彼は脇役に過ぎないのですが、軍隊に対して果たしている役割は何なのでしょう?「抑え付け」あるいは「緩衝材」という言葉が浮かんでしまうのでした。