中島敦「名人伝」

 弓の名人になろうと志を立てた紀昌は、名人・飛衛に弟子入りした。飛衛は、まず瞬きせざることを学べと命じた。紀昌は修行した。2年の後、鋭利な刃物が目先を通っても瞬きをせぬまでになった。彼のまぶたはそれを閉じさせる筋肉の使用法を忘れ、睫毛と睫毛の間には蜘蛛の巣がかかった。次には、視ることを学べ。師はより高度の技を要求する。紀昌は再び修行した――。

李陵・山月記・弟子・名人伝 (角川文庫)

李陵・山月記・弟子・名人伝 (角川文庫)

 笑える前半からアイロニカルな結末まで、一直線に楽しめる珍品です。マンガのような展開の果てにすっかり悟入した(ように見える)紀昌ですが、その世界は「幸せ」なものには見えないのでした。坂口安吾の「落語・教祖列伝」シリーズや、芥川龍之介の王朝ものにも似ていて、コミカルな中に秘められた教訓をいろいろ探ることも出来るように思います。
李陵・山月記・名人伝 (必読名作シリーズ)

李陵・山月記・名人伝 (必読名作シリーズ)