中島敦「夫婦」

 大人しいギラ・コシサンの妻・エビルは浮気者だったので、異常な焼餅焼であった。この地方には喧嘩で勝った方が正義となるしきたりがある。怪力エビルは全勝し、彼女の情事は正しいことになった。ああ、哀れな夫よ。だがある日、ギラ・コシサンは美人のリメイと結ばれた。むろんエビルが見逃すはずはない。夫を糾弾し、リメイを襲撃した。けれども、リメイは意外と強くって――。

中島敦 (ちくま日本文学全集)

中島敦 (ちくま日本文学全集)

 小心な男をめぐる女同士の戦いを描く、笑いどころの多い作品です。昔の人々は全ての生活が慣習に支配されていましたが、今や多くが失われました。残っているものも「文化保全」というプロテクトがかけられており、その瞬間に飛び散る熱情は変わらないのですが、役割は違ってしまっている場合があります。「実」を伴わない「形」を保存することに、どのくらいの意味があるのだろうかと思ったりします。