安岡章太郎「悪い仲間」

 ようやくニキビがつぶれかけてきた夏休みの頃、僕は藤井高麗彦と出会ったのだ。彼は僕をさまざまな冒険に誘っては僕を大いに驚かせ、彼が示唆するさまざまな秘密は、僕の彼に対するイメージを決定付けた・・・。そして夏休みが終わると、僕は高麗彦と同じ行動をするようになっていた。級友の倉田は僕に驚嘆のまなざしをむけ、僕は藤井高麗彦になろうとした。

ガラスの靴・悪い仲間 (講談社文芸文庫)

ガラスの靴・悪い仲間 (講談社文芸文庫)

 いつの時代でも少年たちは、自分の周りにヒーローを探し、その行動の真似をし、やがて自らがヒーローになろうとします。行動をまねすることではかる同一視は、子供ならではのものですが、その行動の元である気構えを真似する段階に進んだとき、人ははじめて自分で物を考えるようになるのでしょう。
 少年たちの行動をみずみずしいタッチで描きますが、後半に従い、作者はそれに「他国に対して次々と戦争を仕掛けていた時代」という熱病の影響を重ねていきます。そうして、他人に影響を与え・与えられることをストップし、一人で立ち上がる「時代」の到来を示唆します。