北条民雄「癩を病む青年達」

 まだ発症していないため退院の望みを捨てきれなかったが、成瀬のような青年達は驚くべき速さで病院に慣れ、この小さな世界に各々の生活を形作って行くのだった。病院に婦人患者は三十パーセントほどしかいないため、ここでは女は王様で男は下僕である。――成瀬は折に触れてふと自殺が頭をかすめるようになった。

 未完成作品。まだ小説的な展開は始まっておらず、患者によるリアルな手記とも言えます。
 未来を暗示するどころか直接見せられてしまう、つまり、いきなり目の前に「オマエは将来こうなるんだぞ」といった姿を見せつけられてしまう、そんなときに「落ち着け」「慣れろ」という方が無理でしょう。けれども、時間の存在は彼らにいつしか「落ち着き」と「慣れ」を与えるのでした。
 あれほど意識的に遠ざけていたはずの患者たちの「世界」に、成瀬も次第に入っていきます。本能とは、転がってしまった運命に対し、逡巡し、悩み、諦め、その次に、最善の居場所を見つけようとするようです。