浅井美英子「阿修羅王」

 それにしても、このブヨブヨの怪物は何一つ自分で出来やしない。脅迫するような泣き声に、世話をされている身の程を考えない傲慢な奴だ。紐で阿加の胴を縛って外出したが、帰ってくると窒息しかけていたようだ。まったく忌々しい――。母・加知子の育児放棄に近い放任主義は、娘・阿加を負けん気の強い子に育てたようだ。それでも成長する娘、そして母。

 教え教えられ、成長していく母と娘。自由かつ自己責任において生きる加知子と阿加ですが、成長するに従って、阿加は(法律や良識や宿題や成績といった)「社会の掟」に取り込まれざるを得ません。そうしなければ生きていけないように思えます。普通の人ならば、それらに取り込まれて生きていくでしょう。しかし、彼女は『阿修羅王』なのです。

 ラストは颯爽とした格好よさがありました。「学校教育」や「社会」といったものに対する疑問が、加知子を通して語られもします。