2004-06-18から1日間の記事一覧

能島廉「競輪必勝法」

私は東大を卒業後、出版社に就職し、従兄弟の良雄は競輪選手になった。私も彼も将来を嘱望されていたのだが、3年、4年と経った頃、良雄は稼ぎを酒につぎ込むようになり、私も仕事を休んで競輪へ出かける日が多くなっていた。良雄は酒を飲まなければ、まだA…

木山捷平「耳学問」

私は耳学問であるがいくつかのロシヤ語を知っている。オイ。コラ。馬鹿野郎。日本人。陰部。交接。これらの他に「ヤー、ニエ、オーチエン、ズダローフ」=「私は病気である」も棒暗記した。それでも八月十二日、私は現地招集というやつを受け、バクダンをも…

今日出海「天皇の帽子」

果てしなく巨大な頭。それが成田弥門の最も目立つところであった。真面目だが成績はあがらず、追従やはぐらかす術を知らず、彼は博物館の雇員となった。何々博士や宮内庁の高官が出入りするところで働くことは、端厳な武家風教育で育った彼にとって誇りだっ…

浅井美英子「阿修羅王」

それにしても、このブヨブヨの怪物は何一つ自分で出来やしない。脅迫するような泣き声に、世話をされている身の程を考えない傲慢な奴だ。紐で阿加の胴を縛って外出したが、帰ってくると窒息しかけていたようだ。まったく忌々しい――。母・加知子の育児放棄に…