梅崎春生「ボロ家の春秋」

 僕が借りている家に突然、野呂旅人という男がやってきました。そんな話は聞いちゃいませんでしたが、どうやら二人とも貸主に騙されたらしい。僕らは被害者同士で気持ちを通じ合わせたのですが、この友好関係は長続きしませんでした。この野呂は嫌がらせが好きでしてな。僕を追い出そうとしては、いろいろイジワルをしてくるのです。仕方がないので、僕もやり返すことになりました。

ボロ家の春秋 (講談社文芸文庫)

ボロ家の春秋 (講談社文芸文庫)

 直木賞受賞作ですが、「直木賞も結構やるなぁ」と思う、とてもコミカルな作品です。ボロ家を借りた(or買った)ことになってしまった2人の男が、各々の部屋から相手の行動をじっと見つめては、互いに「あいつを出し抜いてしまえ!」とたくらんでいます。と書くと陰湿な話のようですが、けれども彼らは『他人に対しては無抵抗』で、鏡に写したようであり、ちょうどいいコンビなのでした。
 この生活が与えるエネルギーのおかげで、彼らは、おそらくこれまでにないほど生き生きとした生活を送っています。一日をムダに過ごすことに不安を覚えるときは、どれでも構わないので、1つの「感情」を働かせるようにするといいようです。