松本清張「菊枕」

 善良だが向上心や野心のない夫に失望した妻・ぬいは、俳誌に句を投じるようになった。以来家事が疎かになったが、夫はとがめることが出来ず、台所におり子育てもした。ぬいは生来勝気な性格であったが、それは自分より才能豊かな(と彼女が感じた)人物に対して顕著だった。その力は彼女に勉強させたが、他の俳人からはよく思われず・・・。

或る「小倉日記」伝 傑作短編集1 (新潮文庫)

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 すばらしい実力を持ちながらも、その一途すぎる姿勢が体制に認められず、ぬいは不幸を呼んでしまいます。それは実力を吸い上げてくれ、高めてくれる人間が周囲にいなかった(と彼女が感じた)ことによるのですが、果たして本当にそうだったのでしょうか。
 ぬいのモデルは、近代女性俳句の先駆者・杉田久女だそうです(が、この小説には事実誤認があり、作者・松本清張が久女の遺族から名誉毀損で訴えられたとか)。私は、映画「カミーユ・クローデル」のような感じを抱きました。