松本清張「青のある断層」

 天才画家・姉川の不調に気づいていたのは、画商・奥野の確かな眼だけだった。姉川は元来寡作なため一般に気づかれてはいないが、二年前をピークに彼の才能は行きづまりを見せていた・・・。そのとき、奥野の店に入ってきた若い男。売り込みである。下手だ。あまりにも下手だ。だが、奥野は何かをひらめいたようだ。目は真剣味を帯び、そして言った。キミの絵全てを買いましょう。

或る「小倉日記」伝 傑作短編集1 (新潮文庫)

或る「小倉日記」伝 傑作短編集1 (新潮文庫)

 一流画商・奥野ともあろう者が、なぜそんな無駄なことを・・・という行動のミステリに対する興味でつなぎ、ラストには現実の厳しさを浮び上がらせます。
 この作品の世界には、明らかに二つの層が存在しています。画商と一流画家による上位層と、無名画家たちの下位層です。プロトコルの存在が、それらの距離を瞬間とても近づくのですが、物語が進むうちに再び大きく離れていきます。ある繋がりだけを残して。貧富差は資本主義の一側面ですが、印象に残る読後感が得られる充実した作品です。