安部公房「闖入者」

 ノックに応じてドアをあけると、数え切れないほどの大家族がならんでいました。先頭の紳士が「お邪魔しましょう」と言い、全員が部屋に上がり込んできました。ぼくは何も言っていないのに、部屋は占領されてしまいました。ぼくが抗議すると、紳士は急に態度を変えて「ずうずうしい奴だな」とののしり、多数決をとりました。そしてぼくは奴隷のように働かされることになったのです。

闖入者 (1952年)

闖入者 (1952年)

 民主主義の落とし穴が描かれています。突然やってきた大家族が唱える自称民主主義は「数の暴力」に他なりません。どれほど悪意ある発議であろうとも、金を舞わせ党則を武器に脅し、多数派工作が上手くいけば、少数の善意はもみ消されてしまいます。横暴な家族に対してイライラするギャグのような展開で始まる小説ですが、その問いかけには、民主主義への考察と、本当の公平さに対する視点があります。