2004-07-26から1日間の記事一覧

安部公房「無関係な死」

Aなにがしが自分の家に帰ってきたとき、見知らぬ男が死んでいるのを発見した。麻痺状態から立ち直っても助けを呼びに行くことはできなかった。・・・これは彼を陥れようとする狡猾な犯人の罠かもしれない。けれども目の前にある死体もいつまでも大人しくして…

安部公房「時の崖」

おれって馬鹿なのかもしれないなあ。なんでこんなことやってるんだろうって、ときどき考えちゃうんだよ。おれも前はチャンピオンにある気でいたけど・・・でもチャンピオンだって、落ちるのは早いぞ。チャンピオンの向う側が、いちばん急な崖なんだから・・…

安部公房「闖入者」

ノックに応じてドアをあけると、数え切れないほどの大家族がならんでいました。先頭の紳士が「お邪魔しましょう」と言い、全員が部屋に上がり込んできました。ぼくは何も言っていないのに、部屋は占領されてしまいました。ぼくが抗議すると、紳士は急に態度を…

大江健三郎「芽むしり 仔撃ち」

感化院から集団疎開してきた僕たちは、悪意ある壁に閉ざされたこの村に連れてこられた。家畜のような食料に、僕らの心は屈辱で満たされた。だが数日後、大人たちは逃げていった。この村にみられはじめた疫病から逃げたのだ。僕たちを置きざりにして・・・。…

島尾敏雄「死の棘」

寄りそってくる妻はもういない。信頼のまなざしはもう認められない。電車を降りて家に帰ると妻はいなかった。女を刺し殺すのだと言っていた顔が、鶏の首を黙ってしめていた孤独な格好が目に浮かぶ。私は二度と行くまいと誓ったはずの、女の家にふたたび向う…