石川淳「曾呂利咄」

 奉行石田光成来訪の知らせに、はてと立ち上がった曾呂利新左衛門、これは知部殿と盃あげるが、いや、今宵人知れず参ったのはそなたの智慧を拝借するためだ、まず聴け、と語ったところによれば酒樽が不思議な盗まれ方をするといい、そなたの器量にぜひ頼む、むろんただではない、一樽はおろか酒蔵一棟寄進につこうと治部少輔、するとにっこり笑って曾呂利立つ。

石川淳 (ちくま日本文学全集 11)

石川淳 (ちくま日本文学全集 11)

 小説を通して句点(まる)がひとつしかない、つまり、一文が延々と続くという、大変ユニークな実験的作品です。
 息継ぎをする場所がなく、苦しそうにもうかがえますが、むろん、適当に切って悪いという法はありません。小説の後半で示される対決の図は、さすがは曾呂利、やはり曾呂利、と見事な裁きを見せてくれます。そして、結末に待っているのは見事なまでの、ほい、ファンタスティック。
 ちなみに曾呂利新左衛門は実在しており、豊臣秀吉の御伽衆といわれる人物です。