吉行淳之介「手鞠」

 かつてたびたび肌を合わせた女に声をかけられたとき、彼は思わず雑沓にまぎれこむ姿勢になった。この女に対して逃げ隠れする理由も、彼はもっていないのに――。彼と友人の男は、女の後をついて、街の裏側へと歩み込んでいく。はじめてその種のことを経験した、大学生の頃のことを思い起こしながら。


 男が、女との久しぶりの出会いによって思いだす、過去のギラギラしていた頃の思い出。と、否応なしに比べてしまう、疲弊しきった現在の姿。まあ、「若い時に遊びすぎたんだよ」ということですけども。
 最後、このタイトルの秘められた(?)意味に気づいたときには、一瞬の火花は散りうせ、話はいつの間にか終わっています。その花火の魅せ方散らせ方は、意外性もあって、余韻が残り、とても巧い!

 「どう、つき合わない?」
 「君とは、前からつき合わないようにしているじゃないか」
 「そういう、つき合いかたじゃないわ。そういうつき合いかたじゃ、あたしもやってゆけなくなったわ」