石川淳「アルプスの少女」
クララはハイジのはげましのおかげで、立ち上がることが出来るようになった。歩くことが出来るようになったクララに、牧場の生活に気に入らないことがある法はない。けれどもクララの目と足は、牧場とは反対側の村の方に、村よりもずっと向うのほうにむいていた。牧場に不満もないけれども、見知らぬ町、めずらしい土地に走って行きたいのである。
- 作者: 石川淳
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 1989/09
- メディア: 単行本
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穏やかで何の不満もない牧場と、危険がいっぱいのふもとの村が対比されます。それはそれは、牧場は幸せでしょう。牧場の穏やかさは、昨日も今日も明日も変わりません。未来の予想が可能です。安定した、穏やかな日々が待っていることでしょう。
けれども、ふもとの村は変わり続けます。未来がどうなるのかなんて、誰にも分かりません。乱暴で、血が流れるかもしれません。苦しむことが分かっていても、けれども、行け、走れ、それが生きるということだ・・・。寝ながら生きるより、動いて死ね!石川淳らしい力強さです。
「ハイジにさよならもいわないで別れるのは、とても悲しいわ。それでも、逢ってさよならをいえば、もっと悲しいにちがいない。いっそ行くのをやめにして、いつまでもこの山の上にとどまっていようかしら。」
「いや、とんでもない、そうはさせない。」
足がおこってものをいったようであった。