石川淳「二人権兵衛」
狐を盗んだうんぬんのつべこべ問答のすえ、とぼけ顔のゴンベは船橋の権兵衛と証書をかわした。「首一つ。払えなければ米一俵」。ゴンベは押問答というやつは不得手で、脇差をちらちらさせる権兵衛に負けることはきまっている。それにしても、これはゴンベの腹にこたえた。むろん首の心配なぞしていない。腹の底が空になった時分に、たかが首一つをどうこういうひまは無い。
- 作者: 石川淳
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 1991/07
- メディア: 文庫
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展開は複雑で人間の気持ちの揺れが大きそうですが、それらをサッパリ省略したあげく、とても自然で単純なことのようにうかがえるのは、それも狐の奸智のせいなのでしょう。だらだらと生活しているようでいて、結構抜け目ない村人たち。彼らの姿を変えるのは狐、いや、運命です。