椎名麟三「ある不幸な報告書」
石本家では税金滞納により家具一式が差し押さえられた。妻・とり子は、家が彼女の家ではなくなったように感じられたが、国家権力により認められた家具により、石ころのような自分たちにも光を当ててもらえた思いもした。まもなく、夫の浜太郎ら一家四人が帰ってくる。そしてその様子は向かいの家の二階から学生に監視されており、彼は始終「不合理だ」と呟いていた。
- 作者: 椎名麟三,井口時男
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2005/01/08
- メディア: 文庫
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酒に逃げる夫、新興宗教に走る妻、家族を無視して無口な長男、自分の幸せを優先する長女、権力に石を投げて窃盗もする次男。作者は誰にも肩入れしていないようですが、傍観者として公平な目線を貫いたためではなく、平等な愛着があるということなのでしょう。逆に、唯一突き放したように描かれているのは学生であり、そこに作者の気持ちが読み取れます。
彼は「神」と「権力」を象徴しますが、それすらもひっくり返してしまうことで、巨大社会におけるチッポケな人間の存在にも目を向けます。
・ポール・オースター「幽霊たち」