2004-04-18から1日間の記事一覧

牧野信一「西瓜喰う人」

村人が最も忙しいみかんの収穫時、作家の滝は、あの丘の頂きの上で半日あまり熱心に凧揚げをしていた。それも決して呑気な凧上げではない。夢中だ。余はてっきり滝が小説の構想に余念がないと思っていたのに!滝は日ごろ何をして過ごしているのか。滝は書斎…

武田泰淳「ゴーストップ」

客のクレーム応対を仕事とする村野は、今日も同僚が起こしたトラブル処理に追われていた。「金のかからないことなら、なんでもハイハイやっておけばいいんだよ」と部長も言う。そこにあの老人が姿をあらわしたのだ。老人の怒りに燃えた目つきは、村野に徹底…

島尾敏雄「格子の眼」

この家の二階の廊下には、どういうわけか格子がはまり、下の部屋を見ることが出来る。百合人は穴がどんどん大きくなって自分を吸い込んでしまう恐怖におびえ、あるときは反対に穴から自分が鬼みたいなものに覗かれているような悪寒を感じていた。なぜなら百…

尾崎翠「第七官界彷徨」

この家には勉強熱心な家族が住んでいるのである。二助の部屋からは肥やしの匂いが漏れ、三五郎は受験とは無関係なオペラを歌い、一助は彼らを「分裂心理だ」と言っている。そこで私は詩の勉強を始めたのである。人間の第七官に届くような詩を作ってやりまし…