武田泰淳「ゴーストップ」

 客のクレーム応対を仕事とする村野は、今日も同僚が起こしたトラブル処理に追われていた。「金のかからないことなら、なんでもハイハイやっておけばいいんだよ」と部長も言う。そこにあの老人が姿をあらわしたのだ。老人の怒りに燃えた目つきは、村野に徹底的なサービスをさせた。ハア、ごもっともです。おっしゃるとおりです、ハア。だが、この老人の要求は示談金ではなかった。


 リアルな痛みを感じさせる作家・武田泰淳ですが、本作にはそうした厳しさはありません。読みやすく分かりやすく、そして面白い、充実のエンターテイメント。変わりばえのしない日常をゴーストップ(信号機)にみたて、半狂乱の老人がそれをかき回す様子がスリリングに描かれます。後半のシーンはスピード感にあふれており、一気読みのド迫力です。

 客を大切にしているのか、それとも客をだましているのか、どっちにも理屈のつく職業である。親切なサービスが実は、儲けたいばっかりの下心であり、いいかげんな一時のがれが、職場への誠実になりかねない。