島尾敏雄「格子の眼」

 この家の二階の廊下には、どういうわけか格子がはまり、下の部屋を見ることが出来る。百合人は穴がどんどん大きくなって自分を吸い込んでしまう恐怖におびえ、あるときは反対に穴から自分が鬼みたいなものに覗かれているような悪寒を感じていた。なぜなら百合人は疎外感を感じていたからだ。彼は考えていた。自分はこれからどうなるのだろうか。やはり大人になってしまうのか・・・。

島尾敏雄 (ちくま日本文学全集)

島尾敏雄 (ちくま日本文学全集)

 鋭敏な感受性を喪失した鈍感な人種・大人が、社会に対する不安感をそのまま持って、子供の目線に立ち返ったとしたら。
 気分がくるくる変わる、いかにも子供らしいはしゃいだ様子の上に、だんだんと感じる大人世界からの疎外感が描かれます。その疎外のキッカケは、大人が気づかないほど小さなものである場合があります。もちろん子供の頃に誰もが経験したはずなのですが・・・。
 話はいたってシリアスですが、「こんな幼稚園に来るのじゃなかった」だの「その日一日中身体がだるくて仕方がなかった」だのといった、5、6歳の子供の妙にませた考えに笑えます。