2009-06-21から1日間の記事一覧

石川淳「虎の国」

猿狩を催した中に豪のもの、今枝無利右衛門がいた。猿めを追って山へ分け入れば、いつしか自らも見失う。大脇差の男と出会い、うかがうに、近隣一ところは、今は加賀領でも越前領でもないという。無利右衛門いぶかしげに問う。年貢もなければ掟もないが、酒…

大江健三郎「後退青年研究所」

この世界は暗黒の深淵にむかって傾斜しているので、敏感なものたちは、いつしか暗黒へすべりおち、地獄を体験するのだ・・・。やっと二十歳になったぼくは、ゴルソン氏のオフィスでアルバイトをしていた。ゴルソン氏のオフィスに来る日本の青年たちの表情は…

新美南吉「おじいさんのランプ」

東一君が倉の隅から持ち出してきた、おじいさんの思い出のランプ・・・それは50年ぐらい前の話である。仕事を探していた十三才の巳之助は、ある日隣町でランプを見つけた。少年の村にはランプなんてなかったため、美しく明かるいランプに見とれ、そして思っ…

中島敦「狐憑」

弟の惨殺を直視して以来、シャクは妙なうわごとを言うようになった。一同はそれを弟の霊が喋っているのだと結論した。だが、シャクの言ううわごとは日に日に多彩になっていった。人々は珍しがってシャクのうわ言を聞きに来た。だが、あるとき一人の聴衆が言…