石川淳「虎の国」
猿狩を催した中に豪のもの、今枝無利右衛門がいた。猿めを追って山へ分け入れば、いつしか自らも見失う。大脇差の男と出会い、うかがうに、近隣一ところは、今は加賀領でも越前領でもないという。無利右衛門いぶかしげに問う。年貢もなければ掟もないが、酒にもあそびにも事かかぬ、手だれどもがあつまった、それがこの土地、虎の国だ。勇力の者がかしらになるというこの土地に、どうだ、勝負してみる気はないか。無利右衛門おもうには、試合と聞いてためらう武士はなく、こころをきめて、ともに向う。奥殿には大師匠の手前に、高弟三人あり。いざ、勝負。
- 作者: 石川淳
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 1989/12
- メディア: 単行本
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最後の最後に見られる「情」の形が、とてもいい。それはホンモノとホンモノとの間にしか通じ得ない、さらりとした、それでいてしっかりとした絆。