大江健三郎「後退青年研究所」

 この世界は暗黒の深淵にむかって傾斜しているので、敏感なものたちは、いつしか暗黒へすべりおち、地獄を体験するのだ・・・。やっと二十歳になったぼくは、ゴルソン氏のオフィスでアルバイトをしていた。ゴルソン氏のオフィスに来る日本の青年たちの表情は、ぼくに憂鬱さをたっぷりと植えつけた。ゴルソン氏は、学生運動から離れた旧活動家の学生にインタビューするのである。なぜきみは後退したのか?なぜきみは挫折したのか? 

見るまえに跳べ (新潮文庫)

見るまえに跳べ (新潮文庫)

 自分たちの手でシステムを変えられると信じて行った運動が、虚しい結果、敗北に終わりました。その挫折感、屈辱感、無力感。それを素手で抉り出して、アメリカのために役立てようとするゴルソン氏。あまり研究のためとはいえ、あまり素敵な職業ではないようです。負けた者が抱え込んだ恥を、勝った者に告白しに行き、それにより金銭を得るという形・・・。この日本人もまた、あまり見栄えの良いものではありません。