中島敦「狐憑」

 弟の惨殺を直視して以来、シャクは妙なうわごとを言うようになった。一同はそれを弟の霊が喋っているのだと結論した。だが、シャクの言ううわごとは日に日に多彩になっていった。人々は珍しがってシャクのうわ言を聞きに来た。だが、あるとき一人の聴衆が言った。シャクの言葉は理路整然としすぎている、彼自身が喋っているだけじゃないか、と・・・。

中島敦 (ちくま日本文学 12)

中島敦 (ちくま日本文学 12)

 昔の部落に題材を求めるのはそれが単純な世の中だったからで、そこに特徴ある人間を放り込むことで生じる当然の摩擦から「人間」を見つけるのが、この場合の作者の狙いなのかもしれません。
 有用な人材もその役目を果たしてしまった後は、無残にも捨てられてしまいます。その有用さが認識されていない世界ならば、なおのこと。人間が自由意志で選べないものは、親と時代。人間が「認められる」ためには、様々なラッキーが必要なようです。