横光利一「面」

 吉を、どのような人間にしたてるかということについて、家族間で晩餐後、論議されていた。大阪へやるほうがいい、百姓をさせればいい、お茶わん作りをさせるといい・・・。その夜、吉ははてのない野の中で、口が耳までさけた大きな顔にわらわれた。以来、吉は学校でもぼんやりとしていたが、まもなく何事かをひらめいて、屋根うらへのぼっていって作業をしはじめた。

日本の童話名作選 昭和篇 (講談社文芸文庫)

日本の童話名作選 昭和篇 (講談社文芸文庫)

 主人公の将来にたいして、家族はあれをやれ、これをやれと、なんだか無責任に方向付けようとしているように思えます。けれども、本人に決意がないのだから仕方がありません。人が職業を選ぶときに考えるのは2点であり、それは仕事への興味と、才能のあるなしです。
 歩く道を自分で選べない、あるいは他人に選ばせるように仕向けた人間は、結果の不出来を他人のせいにしようとすることがあり、そのことについても描かれます。この作品は、母親の控えめながらいつでも吉を思っている態度が、とてもいいです。