横光利一

横光利一「面」

吉を、どのような人間にしたてるかということについて、家族間で晩餐後、論議されていた。大阪へやるほうがいい、百姓をさせればいい、お茶わん作りをさせるといい・・・。その夜、吉ははてのない野の中で、口が耳までさけた大きな顔にわらわれた。以来、吉…

横光利一「春は馬車に乗って」

「俺はこの庭をぐるぐる廻っているだけだ。お前の寝ている寝台から綱をつけられていて、その綱の円周の中を廻るだけだ」「あなたは早く他の女の方と遊びたいのよ。あたしは死んだ方がいいの」。これは「檻の中の理論」である。檻に繋がれた彼の理論を、彼女…

横光利一「時間」

リーダーが金を持って逃げたために宿代が払えなくなった芸人一座。さらに1人逃げ、2人逃げ、残った者は私を含めて12名の男女。「これ以上の抜け駆けは許さない」と互いを監視し、「逃げるときは一緒だ」と脱出の相談を始める・・・。降り続く豪雨の中、動物…

横光利一「機械」

私の家の主人は必ず金銭を落す四十男であり、こういうのを仙人というのかもしれないが仙人と一緒にいるものははらはらしなければならぬものだ。このネームプレート製造所の仕事は見た目は楽だが薬品が労働力を奪っていくのである。私は次第に仕事のコツを覚…