横光利一「時間」

 リーダーが金を持って逃げたために宿代が払えなくなった芸人一座。さらに1人逃げ、2人逃げ、残った者は私を含めて12名の男女。「これ以上の抜け駆けは許さない」と互いを監視し、「逃げるときは一緒だ」と脱出の相談を始める・・・。降り続く豪雨の中、動物の集団と化した彼らは、寒気と戦いながら死と隣り合わせの時間を過ごす。

愛の挨拶・馬車・純粋小説論 (講談社文芸文庫)

愛の挨拶・馬車・純粋小説論 (講談社文芸文庫)

 展開の早いストーリーが、リズミカルでテンポのよい口調で語られます。その合間には繊細な心理描写が、時にはワイルドに時にはソフトに織り込まれており、短い作品の中にも見所が満載です。特に、1人の行動に追随する人間心理の展開に、とても面白いものを感じました。現実社会を思わせる部分です。また、全てに打ち勝つのは「○○」であるというオチは、まるで映画「ショコラ」のよう。