石川淳「飛梅」
愛情のかぎりに光子を育てた大八だったが、帰国してみると光子は不良になっていた。その間育てていた十吉の返事は歯切れが悪い。光子に逢うこと叶わず、ついと大八は立ちあがり、「おれは必ず光子に逢ってみせるぞ」と息まいてようやく外に出て行った。すると十吉はいそいで二階にひきかえし、ちゃぶ台につまずく勢いで押入のまえに駆け寄り、がらりとあけると、とたんに中から、「ばか」。
- 作者: 石川淳
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 1989/07
- メディア: 単行本
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「それじゃ、ぼくがおまえの肉体に惚れたといったら……」
「くすぐったいよ、助平。」
ぴしりと、しなった平手の音が十吉の頬に鳴った。