2009-06-25から1日間の記事一覧

石川淳「飛梅」

愛情のかぎりに光子を育てた大八だったが、帰国してみると光子は不良になっていた。その間育てていた十吉の返事は歯切れが悪い。光子に逢うこと叶わず、ついと大八は立ちあがり、「おれは必ず光子に逢ってみせるぞ」と息まいてようやく外に出て行った。する…

中島敦「悟浄出世」

悟浄は病気だった。彼は一万三千の妖怪の中で、最も心が弱い生き物だった。「俺は莫迦だ」とか「俺はもう駄目だ」とか「どうして俺はこうなんだろう」とか呟いていたのである。医師の魚妖怪に「この病には自分で治すよりほかは無いのじゃ」と言われ、とうと…

高見順「インテリゲンチャ」

東大卒の満岡は、インテリに見合った仕事として、新聞の社説を書いていた。だが、最近、悩みを持ち始めたようである。結局、社説なんてトップの意向に従った、枠内の仕事なのではないか、だとするならば、タイピストと大差ないのではないか・・・。「観念」…

島尾敏雄「勾配のあるラビリンス」

私はたそがれの頃、大都会の真中に突き出ていて、街の屋根を見下す公園に現れた。ところがそのときに限って、他に人が誰も現われなかった。――私は空虚を前に発作に襲われ、走り出していた。人の影を求める。それは世間では普通の顔をしているが、実際は追い…