安部公房「燃えつきた地図」
誰もが出掛けたところへ帰ってくる。見えない目的に駆り立てられて、戻ってくるために出掛けて行く。だが、中には出掛けたまま帰ってこない人間もいて・・・。いったい彼はどこにいるのだ。探偵のぼくは失踪した彼を求めて、彼の地図をたどる。いや、ぼくが探っているのはぼく自身の地図であり、ぼく自身の内臓にすぎない・・・。
- 作者: 安部公房
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1980/01/29
- メディア: 文庫
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新たな出会いを様々な形で求める現代人の行為は、現状からの失踪願望、現在の共同体からの脱出なのかもしれません。けれども「発見した世界で幸せを得たと思った途端に、発見した世界と捨て去った世界が瓜二つであることに気づく」(by花田清輝)のです。それに対する安部公房の対処法がラストに書かれているようです。その切れ味はとても鋭くてすばらしく、ラスト数ページのために小説全体が書かれているようにも思えました。
戻ってくることが、目的のように、厚いわが家の壁を、さらに厚くて丈夫なものにするために、その壁の材料を仕入れに出掛けて行く。
だが、ときたま、出掛けたっきり、戻ってこない人間もいて……
- 北杜夫「河口にて」