高見順「不正確な生」

 わたしはまだまだ気は若い。先日もたち食いをしていると若い男女がやってきて、往来でダンスの稽古をはじめたのである。「おれにも教えろ」「おじさんには無理よ」「なにが無理だ」と、見よう見真似でやってみた。なんだか肩が凝ったみたいな、凝った肩がほぐれるような・・・とにかく――何がとにかくか?そもそもこんなことを、誰に向っていっているのだ?

名短篇―新潮創刊一〇〇周年記念 通巻一二〇〇号記念 (SHINCHOムック)

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 次々に話の主題が移り変わっていく「心境小説」のスタイルで書かれた小説です。主人公は過去を振り返りながらも、いくつかの出来事の真実の姿を知ることで、徐々に「不正確な生」の存在に気づきます。「人生とは何か?」が未だにつかめていない、若々しい主人公がここにいます。

 これは一体、誰に向っていっているのだろう。誰に対して、わたしはこんなことを書いているのだろう。人生に対して?――そんなキザなことを言うのはいやだが。