開高健「玉、砕ける」
張立人は私が香港へ来るたびに会うようになった、初老の友人である。彼との話題は東京では笑い話になりそうだが、ここでは痛切な主題なのである。つまり、どちらか一つを選べ、選ばなければ殺す、沈黙も殺すといわれ、どちらも選びたくなかったときに、どうやって切りぬけたらよいか?という問題である。帰国の決心をした私は、これにけりをつけなくてはならない。
- 作者: 開高健
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 1981/07/25
- メディア: 文庫
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その後、総まとめとして最後に得た「玉」は、果たして現実のものだったのか、それとも夢幻に過ぎなかったのか。日本へ帰る彼が戦場から持ち帰ったのは、果たして何なのか。戦場には何が落ちているのか。・・・そこで感じるのは、巨大な徒労感。一見無関係なストーリーのまとめ方といい、上手な短編の見本です。
ある朝遅く、どこかの首都で眼がさめると、栄光の頂上にもいず、大きな褐色のカブト虫にもなっていないけれど、帰国の決心がついているのを発見する。