三島由紀夫「橋づくし」

 三人にはそれぞれ切実な願いがある。それはいずれも人間らしいものだから、月は叶えてやろうと思うにちがいない。けれども今夜は同行者がいる。無口で醜い女中のみなである。みなにも願いがあるのだろうか、生意気に。――月下に七つの橋を渡る散歩には、いくつかの決められたルールがある。それを守らないと約束は叶わないのである。

花ざかりの森・憂国―自選短編集 (新潮文庫)

花ざかりの森・憂国―自選短編集 (新潮文庫)

 夜の東京・築地界隈を歩く着物姿の女3人(+1人)は、願掛けのために7つの橋を渡らなければなりません。自分の目的を果たすために、彼女らはチームとしてではなく個人として。他人を救うことはありません。見栄やエゴイズムが描写されたあとで、おとぎ話のようなシャレた展開、そしてさわやかな後味が得られます。