伊藤整「文学祭」

 坪内逍遥先生の逸話を申し上げます。先生は学校を落第してみせることで、日本の文学者に範を垂れたのでありました。夏目漱石も落第しました。永井荷風は入学試験に落ち、萩原朔太郎太宰治も中退しました。これはすべて偉大なる精神の特色であります。彼らは大学当局を否定することから自己確立をはじめたのです。もちろん私、伊藤もその一人です。


 「文学祭」における講演の形式で描かれた、ユーモラスな傑作です。形もユニークならば、話の展開もとても楽しめます。ブチまけられる文壇ゴシップ、文芸批評からフェミニズム論にまで広がったかと思えば、すぐに話は変わっていき、講演者の高慢さがそこかしこに見え隠れ。