江戸川乱歩「押絵と旅する男」

 蜃気楼を見に行った帰りの汽車内には、客はたった一人しかいなかった。その先客は一見四十前後だが顔じゅうにおびただしい皺があり、そして持っていた荷物は生きた人間が描かれた絵・・・。するとその奇怪な男と目があってしまい、私の体は恐怖を感じる心と裏腹に、どういうわけか男の方に近づいていった。そして、そこで私は夢か幻でもあるかのような、世にも不思議な物語を聞いたのだった。

江戸川乱歩 (ちくま日本文学全集)

江戸川乱歩 (ちくま日本文学全集)

 サスペンスホラーの伝説・江戸川乱歩による幻想文学。氏のエロ・グロ・ナンセンスは封印され、ノスタルジックな雰囲気が終始保たれた作品です。がらんとした車内、古風で奇怪な男が行った奇妙な仕草。冒頭の蜃気楼にまつわるトークから現実感をなくすようなアイテムがそこかしこに配備されています。
 ちなみに私は江戸川乱歩推理小説も大量に読んでいて、私的ベストは・・・「影男」(ダントツ!)、「魔術師」(ヤンチャな感じが)、「黒蜥蜴」(舞台も見ました)となります。