遠藤周作「男と九官鳥」

 新入患者が九官鳥を持ちこんできて以来、僕ら患者たちは少し違った午後を過ごせるようになりました。薄笑いをするだけのその患者に代わって鳥の世話をし、婦長の悪口を教え込んだりしました。けれども九官鳥は異様な臭気を発しましたし、何一つ言葉を覚えてくれないのです・・・。

戦後短篇小説再発見5 生と死の光景 (講談社文芸文庫)

戦後短篇小説再発見5 生と死の光景 (講談社文芸文庫)

 患者たちは自らの意志で九官鳥を飼いはじめますが、周囲のことは何も考えていません。それでいて、上手く行かなかった行為の正当化を図ろうとするために、次から次へと他人を悪者にし続けます。その身勝手さは幼稚で、まるで子供で、なんとも無様です。人間の利己的な部分を、病院内という狭いスペースにおいて、軽妙に描き出した作品です。