安岡章太郎「サアカスの馬」

 何の特徴も取得もない僕は、担任の清川先生から諦められていた。叱られることもなく、じっと見つめられるのだ。そんなとき僕はくやしい気持にもかなしい気持にもなれず、ただ、目をそむけながら(まアいいや、どうだって)と呟くのだった。そんな少年の前に現われたサーカスの馬。見るからに情けない姿をしており、つい自分を重ね合わせるが・・・。

 周囲の人間についていけない「落伍者」を自覚した少年の切ないトーンから、満足できる後味が得られる作品です。沈んだ気分をサアカスの馬に繋げるところなど、一読して、上手だなあと感じました。中期の太宰治作品のように、広くオススメできる話です。
心に残る物語 日本文学秀作選 魂がふるえるとき (文春文庫)

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