井上靖「セキセイインコ」

 そのとき私は庭に目をむけて、おや!と思った。二十羽ほどの雀の群れの中に、一羽だけ、セキセイインコが混じっていたのである。色も違えば形も違う。どこからどう見ても別物という感じである。けれども彼らは一緒にやってきて、一緒に西の方へ翔んで行った。このことに私は、ある感動を覚えた。しかし、受取り方は人それぞれで・・・。
 
 雀の群れの中に紛れ込んだ一羽のインコ。見逃されそうな日常のひとコマですが、小説家はそこに意味を当てはめます。正直「この程度のネタから、よくここまで考えるなぁ」と感心してしまった小説です。
 意味を当てはめる方法は、当てはめる人が立っている場所に応じて、様々なバリエーションとなるのでした。特に主人公の考え方は、自分を世界から突き離した、さすがに小説家らしいものであると思いました。
 ただ、鳥たちは、そんなことは何も考えてもいないわけです。鳥は理屈では動いていません。そこに打算的な人間を超えた、鳥たちの運命に対して従順な姿を見て、賢者の姿を感じます。

 「雀でも、自分の群れに身を投じて来たものは棄てないんだ。そういうところは人間よりずっと高級だ。(略) 多少羽の色は違うが、どうせ短い一生を過すだけの話だ。雀といっしょに生きてやろうと思ったんだ」