堀田善衛「ルイス・カトウ・カトウ君」

 ルイス・カトウ・カトウ君は、キューバで私についてくれた現地ガイドである。このカトウ君、日本語の読み書きはほとんど出来ず、町の様子にも通じていない。けれども「アチーネ、アチーモンネ」と繰り返しながら、「ドコサイクカネ」と行こうとしている。そのチョビヒゲを見ていると、まあ、しようがないかという気になってくる。私達はハバナの町を歩き、革命前後のことについて話をする。

戦後短篇小説再発見15 笑いの源泉 (講談社文芸文庫)

戦後短篇小説再発見15 笑いの源泉 (講談社文芸文庫)

 キューバを取材に訪れた主人公に、通訳兼ガイドとしてつくことになったルイス・カトウ・カトウ君。彼はワヰウヱヲを駆使した、古風で怪しげな日本語を使います。そんな2人の珍道中記。
 激動の時代の激動の場所にいることを実感させられる様々な事柄に出会い、ショックを受けたり、失われた母国語を聞き、感慨に襲われたり、しんみりしたり。けれども深刻になりきることがないのは、ルイス・カトウ・カトウ君の人柄のためです。