武田泰淳「異形の者」
私はうまれつき自立独立の精神が欠けて居り、かつその他にすべきこともなかったため、寺に生れた者にとって一番安易の路を選んだのである。だが女を熱望する以上、僧侶になりきることはできぬと思った。彼女らがそり落とした頭を見るときの、瞳のおびえは当然である。われわれは異物だからだ。そうしたとき性欲には殺気がまじることもあり、穴山という男にはそれが顕著だった。
- 作者: 武田泰淳
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1964/01/28
- メディア: 文庫
- 購入: 5人 クリック: 80回
- この商品を含むブログ (69件) を見る