安岡章太郎「蛾」
私は医者を好まない。それは私の身体を、他人に知られることが不愉快だからであろう。近所には芋川医院があるが、まったく流行していない。きっと彼も私と似ているのだ。医院が流行らないことが近所や家族に恥ずかしくてならず、あんな奇怪なことをしでかしたのだ。ところでむし暑い夜、窓をあけはなって読書していたとき、一匹の虫が私の耳の穴にとびこんだ。
- 作者: 安岡章太郎
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2000/08
- メディア: 文庫
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浮上するための努力を放棄したその様子は、どこからどう見ても格好いいものじゃありません。ただ、そんな人間を描いたものであっても、安岡章太郎にかかると、どん底まで堕ちきった感がないためでしょうか、ユーモラスに読めちゃうから不思議です。
- 安岡章太郎「サアカスの馬」