太宰治「新樹の言葉」

 がぶがぶのんで、寝ていたら、宿の女中に起こされた。乳母の子供の幸吉さんが、わざわざ訪ねてきてくれたのである。ああ、これはいい青年だ。私にはわかるのである。ただ、大変ひさしぶりに会ったのに、ごろごろしているところを見られて、恥ずかしかった。だが、不思議と、なんの不安もない。幸吉さんは「今夜はね、計画があるのですよ」と食事に誘ってくれた。

新樹の言葉 (新潮文庫)

新樹の言葉 (新潮文庫)

 若い男女をみて、自分をみる。生活に対する姿勢をしっかりと直し、もっとがんばろう!ちゃんとがんばろう!と、自分に言い聞かせる話です。
 不幸にがんじがらめになりながらも、何とか脱出しようとする必死の姿が見える、太宰治中期の佳作。ほのかに明るく、感傷の敗北、幸福感の大勝利。疲れた人に呼んでもらいたい、とても前向きな作品です。