井上友一郎「受胎」
漫才師の草八と偶然再会したとき、わたくしたちは上機嫌で飲み、彼は芸界の辛酸についても語ってくれた。そして彼は、せっかく板についてきた漫才師の職を投げ出してまで、浪花節をやりたいというのであった。いったいどういうことだろうか。草八は語りはじめた。それは名人・吉田の家に下宿し、その妻と駆け落ちしたことから始まる。
- 作者: 井上友一郎
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 1956
- メディア: 文庫
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草八は、芸人としての名人・吉田を尊敬しつつも、人間としての吉田に別な感情を抱いていきます。そして感情は次第に抽象化され、「妙な思いつめ方」をするまでに至るのでした。その回想を軸とした作品ですが、ラストの行は幸運なまま生きている人にダメージを与えることでしょう。自分で選んだ仕事なら、苦労を表に出してはいけません。ましてや好きな仕事であるなら、なおさら。
回想シーンに入っていくあたりの自然な雰囲気がとてもよかったです。