井伏鱒二「屋根の上のサワン」

 猟銃に撃たれて苦しんでいる雁を見つけた私は、丈夫にしてやろうと決心し、さっそく家に連れて帰りました。勘違いして騒ぐ鳥を押さえつけて手術を施し、一安心です。順調に回復してきた人なつこい鳥に、私はこれにサワンという名前をつけました。そして、秋のある日のこと。突然サワンの甲高い声が聞こえました。何か神経を興奮させる事件が起ったに違いありません。

山椒魚 (新潮文庫)

山椒魚 (新潮文庫)

 人間と鳥の交流の様子を描く物語ですが、最後まで暖かいポール・ギャリコ「スノーグース」のような展開かと思うと、大間違い。この話の底には、自由に生きる動物をペットとして飼う行為に対する戒めを感じます。
 たとえば、「動物のため」として去勢手術を行うことを勧める医師がいますが、果して動物自身はそのようなことをありがたく思っているのだろうか・・・と、この話を読めばそんな疑問を感じることでしょう。それでもペットを飼い続けるためには、「我々は動物の王者・人間であり、弱肉強食の世界には掟がある」ことを認めるしかないのかもしれません。