石川淳「和頭内」

 御存じ和唐内、なにをいうかとおもえば「つらくってかならねえ」。豪傑のセリフとも思えない。子分のもーる左衛門、じゃが太郎兵衛は、サーヴィスすなわち百戯すなわち雑芸をうつ。しかるにこれは三日でつぶれた。横町に一日遅れで開幕したこれも百戯の評判に、すっかり人気をさらわれたのだ。敵状をのぞいてきたら、女の子のちらちらたまらねえ綱渡りがあるという。

石川淳 (ちくま日本文学全集 11)

石川淳 (ちくま日本文学全集 11)

 結末で落語のように下げて終わらせる「おとしばなし」シリーズの1作です。とぼけた味で進みますが、逆転逆転の連続の果てに後発の「鷹」ともまた違った方向に飛んで行き、そしてルパン三世みたいな展開になるのはすごい。
 ここには「生活が苦しいと力が働く」という言葉がありますが、「何も無いところにこそ生きる場所がある」という理論は石川淳らしい逆説で、つまり「苦しいときこそチャンス」であるという強さ・激しさを言うものです。