織田作之助「道なき道」

 日本一のヴァイオリン弾きになれ!幼い頃から父に厳しく育てられた壽子は、青白くやせ細りながらも、生来の負けん気で泣いて頼むこともなく、戦っていた。その日は早くお祭りに行きたいと願っていたが、父は太鼓の音がうるさいからと窓を閉め、うだる暑さの中で練習をさせ、そのとき一瞬!通り魔のような音が聞こえた。――この子は大物になるかもしれん。練習の厳しさは増し、それは父の復讐でもあった。

聴雨・蛍―織田作之助短篇集 (ちくま文庫)

聴雨・蛍―織田作之助短篇集 (ちくま文庫)

 子供の思いにはお構いなく、「・・・にしよう、させたい」で子供の将来を決め、自分の青年期の夢をたくして英才教育を施す親がいますが、それは「辛さ」の代替わりではないでしょうか、などと私は思ってしまいます。
 スパルタ教育を受けた芸術家物語としては映画「シャイン」を思い出しました。あの映画におけるピアニストと比べ、この少女は精神も肉体も「強い」のでしょう、負けずに、なにくそ!と立ち上がっては戦うのです。そのモデルは、辻久子です。