織田作之助「神経」

 戦争がはじまると、殺されたあの娘が通っていた「花屋」も「千日堂」も、私が通っていた「波屋」も、大阪劇場も常盤座も弥生座も焼けてしまった。だが、戦後、人々は帰ってくる。焼跡を掘り出して店を構える準備をしている。私は彼らのことを復興の象徴として文に書いた。作家としての力量に嫌気がさしながらも、その文は彼らを奮い立たせる役くらいには立ったようだ。

 作家としての意見を随所に散りばめながら、大阪の今と昔を描き分けて、さらに殺人事件や過去の思い出を交錯させていくという、素晴らしく豪華な食卓です。織田作之助の代表作「世相」とクロスリンクする部分が多数あります。
 今日と明日を明るさを持って生きていくためには、昨日の痛みを少しだけ忘れてあげることが必要なのでしょう。少女の事件をそこに当てはめ、流れるようなストーリー展開で、読ませます。