坂口安吾「盗まれた手紙の話」

 兜町の投機会社に飛び込んできた、見知らぬ精神病院からの分厚い手紙。そこには予言を得るようになったという、元駅員の患者が書いた几帳面な文字がびっしりと並んでいた。饒舌につづられた手紙の内容は、果たして嘘か誠か――。暇つぶしに楽しんでやろうかと、要求どおりに行動した旦那が見た真実は?


 ユーモラスに描かれる二転三転物語。どちらが勝つのか正しいのかというゲーム。坂口安吾独特とも思える感性、すなわち「想像を超えた偉大さに対して、抵抗する力を失い、うとうとと眠くなってしまい、そこに故郷を感じる」といったものによって導かれていく作品です。

 あの人間は気違いだから精神病院へぶちこめなんて、とんでもない。神様は人間をお裁きになるけれども、神様が神様をお裁きになったり、あの神様は気違いだから精神病院へぶちこめなどとおっしゃることはなかったのである。