色川武大「サバ折り文ちゃん」
顔と胴体が異常に大きく、足が細い。身の丈は二メートル弱。出羽ヶ獄文治郎は、全体の感じが陰気で痴呆的な巨漢力士だった。大正から昭和にかけて文ちゃんの愛称で親しまれ、負けても勝っても日本中の人気者だった。だが、その人気はマイナスのものであり、人々は彼の姿に下等生物の姿を見ていただけだった。相撲以外に生き場所のなかった彼の土俵人生は、協会の内輪揉めとともにあった。
- 作者: 色川武大
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 1989/10/07
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劣等感はまた多くの場合感受性を発達させる。劣等感が土台になって他者の弱さをも理解していくからである。もともと土着性が強く闘争心に富んでいる方ではなかったが、こうしてひどく。感じやすい性格が造られていく。だが、誰もそうは見ない。人は外見で判断する。また外見だけではこのくらい洗練とほど遠い人間も居ないのである。